柚木沙弥郎を知ったのは、テレビの番組だった。90歳を過ぎてなお型染めに挑む作家とその大胆なデザインに感銘を受けたことを覚えている。
クリスマス前日、日本を代表する染色工芸家の展覧会へ行った。 作家は99歳になっていた。なお現役だという。事前情報なしで訪ねた今回の展示で驚いたことは、絵本の原画が半分くらいを占めていたこと。染色家だと思っていたので、紙の仕事もされていたことが意外だった。しかも最初の絵本の出版が72歳のとき。挿絵の依頼がきたとき「やった!」と思ったとか。 「自分が面白くなれば、他人も面白くなる。それが、ものづくりの原点」、「ワクワクしなくちゃ、つまらない」と創作に取り組む作家は、ジャンルや手法にとらわれることがない。 染めの型紙を使った挿絵もあれば、アクリル絵の具でべったりと塗られた挿絵があったり。宮沢賢治の作品では、水彩で抽象的に描いた「四次元的」表現に挑んでいる。 柚木沙弥郎の素晴らしさは、歳を取るにつれて作風(たぶん思想)が型から解き放たれて自由になっていることだ。 ユニークな衣装を着た紙粘土の人形たちは、創作の「ワクワク感」にあふれていた。アルファベットを用いた染色作品は、文字をかたちとして捉えているところが面白い。どちらの面から見ても反転した文字がある。 圧巻は、色とりどりの大きな布がつり下げられた染色作品の展示エリア「布の森」。染めのパターンが生み出パターンの繰り返しが生み出す躍動感、染色による線に宿る生命力。作家の意気込み。柚木沙弥郎「布の森」を前にすると、わたしなど未だ土の中に潜っているようなものだ、と思い知る。 刺激的な時間だった。 「いつからはじめたっていんだよ。僕だって物心がついたのは80歳になってからなんだから」 すごいなぁ、この言葉。 まだまだやることがある。やれることがある。クリスマスの前日、99歳の現役作家に大きく勇気づけられて足取りが軽くなった。 |
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